
Oさんには幼い頃の鮮明な記憶があるそうです。
幼いある日、Oさんは母に連れられ瀧のある場所へ旅行へ行ったという。滝のまわりには地元のこどもたちと思われる少年たちがはしゃいでいて、そのうち滝にどぼん、どぼん、と飛び込んでいったといいます。
幼いOさんはその水しぶきをモロに被って大泣きしているところに「おーーーい」という声がして数十メートル向こうのほうに母の友人が立っていてそちらの方に移動していったという記憶です。
それがどこの場所だったのか。いつのことだったのか。気になってしまったOさんは母にそのことを尋ねましたが、母は「あんたが生まれてから忙しくて、忙しくて、旅行なんて一度もいったことないよ」といったといいます。
腑に落ちないOさんは母にその滝でのできごとを事細かに説明しました。すると母は「あっ、一階だけ会社の慰安旅行で瀧のある場所までいったな」と思い出しました。
やっぱり旅行に行ってるじゃないか。と言うOさんに母は言いました。
「でも、あんたはやっぱり行ってないで。だってそれはあんたが生まれる前、お姉ちゃんを連れてった旅行だったから。」
その旅行にOさんが同伴していることはありえないそうです。そして、よくよくその記憶を思い出すとおかしなことにOさんは母に抱きかかえられたり、手を繋いでもらったりということをしてもらっておらず、ただ単に母の横にくっついているだけだったのです。
死んだあとの魂ならまだしも、生まれる前の魂が現れるなんてことがあるのでしょうか。Oさんが唯一体験した怖い話でした。