
それは裕子さんが体験した怖い話です。
裕子さんがまだ小学生だったとき家族旅行へ行きました。裕子さんの家族は4人、父母と妹そして裕子さんです。その日は初夏の気持ちいい日だったといいます。バンガローを貸し切りバーベキューをしたり、夜空を眺めたり、楽しい1日を送りました。
疲れてぐっすり眠りについた裕子さんは夢を観ました。家族と妹と4人でゲームをしている夢です。そのゲームというのが「誰が飴を一番長く舐めていられるか」というシンプルなゲーム。裕子さんの家族はときどきこのゲームで盛り上がっていました。
そして裕子さんは飴を長く舐めるのがとても得意なのです。夢の中でも裕子さんが勝利しました。お父さんは「勝った子には商品があるよ」と言い、すぐそのあと宅配便の人が訪れダンボールを裕子さんに渡しました。
そのダンボールの中には赤黒い虫が入った瓶が入っていました。驚く裕子さんからお父さんは瓶を取り蓋をあけて虫を殺しました。すると、突然、ドアが激しく叩かれました。お父さんは裕子さんに2階のクローゼットに隠れるように言いました。
裕子さんは言われたとおりクローゼットに隠れるとガタガタと震えていました。耳をすますと女の声が聞こえます。父と何かを話しているようです。がまんできなくなった裕子さんは1階の父の元へ行ってしまいます。
そこでは魔女のような黒い服に身を包んだしらない女が父に、なぜ虫を殺したと責め立てているところでした。
まだこどもだった裕子さんは”謝れば許してもらえる”と想い、その場で女の人に土下座をして許しを請いました。すると女は「こどもなのにお前はわかっている、それじゃあ、飴を長く舐め続けたら許してあげよう」と言いました。裕子さんは飴を長く舐めるのが得意なので「やります」と即答しました。すると女は、
「10年・・・10年飴を舐め続けたら許す」
と言って消えていきました。裕子さんは悪夢から目覚めました。そこは両親たちと遊びにきたバンガローの寝室でした。すでに家族はみんな起きているようで、「ご飯ができたよー」と母の声が聞こえました。
ダイニングキッチンへ行くと、父と母は驚いていました。裕子さんの顔の右頬に大きなデキモノができていたのです。それはまるで飴のような。
すぐに、病院へ向かいました。幸いにもできものは悪性腫瘍ではなく、手術をすれば簡単に摘出できてあとも残らないと医師に言われました。しかし、裕子さんは手術を拒みました。
このデキモノが夢で女が言った”飴”だとわかっていたからです。これから10年この飴を取ることは許されません。裕子さんは病院でヒステリックになり手術を拒みましました。当初両親は手術を怖がってると想い優しくなだめていましたが、やがて聞き分けのない裕子さんにキレてしまい。
「もう良い!」
と言ってそのまま家に帰ってきてしまいました。裕子さんはそれから学校でいじめにあったり、自分の見た目がコンプレックスで自信が持てなくな成り暗い性格になってしまったりしましたが、すべては家族のためと思い絶えました。
10年後、裕子さんの20歳の誕生日の日、両親と妹が誕生日を祝ってくれました。ケーキの蝋燭を吹き消した瞬間、右頬のデキモノが穴を空けた風船のようにぷしゅーっと小さくなりました。両親と妹は驚き、何がどうなっているのかわからないようでしたが、裕子さんだけはわかっていました。
10年の呪いがやっと解けたことを。