怖い話

【怖い話】証明写真【伊集院光】

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伊集院光さんが語った怖い話です。

ある後輩のお笑い芸人の話です。その芸人は群馬県の片田舎出身で東京に出てきてがんばっていましたが、いい年になっても芽が出ず、苦渋の選択として田舎に帰って新しい道を模索することにしました。

実家に帰った彼は始めのうちは家から外に出ませんでした。

芸人を辞めた彼でしたが、心の中にあった少しばかりのプライドが邪魔をしたのです。地元の友人には芸人になって有名になってやる。と豪語して出てきたのでいまさら帰ってきたなんてしれたら笑われるんじゃないかと思って誰とも会いたくなかったのです。

しかし、いつまでもこんな生活を続けているわけにはいきません。親から何件か就職先の紹介をされていた彼は明日、その会社に履歴書を送ろう!と決めました。決めたからには気持ちが変わらないうちに行動した方が良いので、彼はその日のうちに履歴書を書き上げることにしました。

なれない履歴書の作成です。芸人をやっていたなんて、正直に書いて良いのか?とか、志望動機ってどうやって書けば良いんだろうと悩みに悩んで履歴書が書き上がったのは深夜の1時でした。

しかし、ここで1点足りないものに気が付きました。履歴書の写真です。3センチ×4センチなどで履歴書の右上に貼る写真を準備していませんでした。まあ、家にこもっていたので当然といえば当然ですが。

彼はここまで完成した履歴書が仕上がらないのが気持ち悪く、証明写真の機械で写真を撮ることにしました。彼の地元にサイトウストアという地元のスーパーがありそのお店の駐車場に3分で完成する証明写真の機械がありました。ちなみにそのお店の店主の息子は彼の同級生でした。

深夜の商店街を歩いてサイトウストアへ向かいました。東京に出て十年くらいで商店街も大きく変わりました。前にお店があった場所が更地になっていたりコンビニエンスストアができたりしていて時の流れを感じました。

ノスタルジックな気分に浸って歩いているとサイトウストアにたどり着きました。

サイトウストアの前には煌々と証明写真の緑の光が灯っていました。しかし、写真機のカーテンはしまっており、中にハイヒールの女の人が写真を撮影していました。

(こんな夜中に・・・女・・?)と少し怪訝に思いましたが、自分も同じだろ。と思いスマホをいじりながら待つことにしました。数分経ち気がついたら女は居なくなっていました。

彼が写真機で撮影をしているとコツコツとハイヒールの音がしました。(あの女の人が外にいるんだ)彼は思いましたが、そんなに気にしないで写真撮影をしました。シャッターが切られフラッシュが焚かれた直後、突然声がしました。

「ねえ、私、キレイになったでしょ?」

「わっ!!」彼はびっくりして写真機のカーテンの下をみるとそこには真っ赤なドレスのスカートとハイヒールが見えました。

すると、女が繰り返します、「ねえ、私、キレイになったでしょ?」

「ねえ、私、キレイになったでしょ?」
「ねえ、私、キレイになったでしょ?」
「ねえ、私、キレイになったでしょ?」
「ねえ、私、キレイになったでしょ?」
「ねえ、私、キレイになったでしょ?」

彼はあまりの出来事にパニックになりました。そして「うるせーーーーーーーーーーーーーーーー!」と叫んでカーテンを明けました。

そこには誰もいませんでした。
  
彼は急いで写真機から出てきた証明写真を手に取るとダッシュしました。サイトウストアから出た直後に曲がり角を曲がろうとした車と接触しそうになり転んでしまいました。

「大丈夫ですか?」中からドライバーが出てきました。「大丈夫です。」そういった瞬間、ドライバーは「お!おう!久しぶり!」と声をかけてきました。同級生でした。「何しているの?」と聞かれ、彼は幽霊を見たなんて言えないので「サイトウストアで証明写真を撮ってきた」と答えました。すると同級生はいぶかしげな顔をします。

彼曰く、サイトウストアは2年前につぶれて今はもう無いそうです。息子の同級生が店を切り盛りしていたのですが、既婚の彼は女癖が悪く不倫をしてしまったそうです。それも同じ学校の後輩だった子であまり見た目がキレイでない子を火遊びのつもりでからかっていたら深い関係になってしまったという良くないケース。不倫が奥さんにバレて、別れさせられたのですが、その時奥さんと息子は不倫相手に「ブス」とか「デブ」とかひどい言葉をあびせたらしいのです。

それが彼女に取ってひどくショックだったらしく、その数日後、サイトウストアにガソリンを持って入ってきて焼身自殺をしてしまい、その事件が原因でサイトウストアは閉店してしまったといいます。

「テレビのニュースにもなったんだけど、忙しくて見てないか?」同級生が言ったあと、

「赤い・・・ドレス?」と彼はつぶやきました。

「お!やっぱニュースみた?そうそう。その女、サイトウストアで焼身自殺するとき真っ赤なドレスを着てきたんだってさ」。

さっき、証明写真機のところに現れた女は、サイトウストアで死んだ女の霊だったのでしょうか。