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語ってはいけない都市伝説

語ってはいけない都市伝説

都市伝説の中に、「絶対に語ってはいけない都市伝説」というものが存在する。

その怖い話をだれかに語ると、とんでもないことが起きてしまうというのである。  

あるとき、ネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」では、こんなスレッドが立ち、多くの2ちゃんねらーを巻き込む噂となった。それが「鮫島事件」である。  

過去にどこかで猟奇的な殺人事件があった。しかしそれは何らかの理由で表に出ることがなく、けっしてだれも語ろうとはしない隠された事件なのである、というものだった。真相を知りたがる人たちがスレッドに「どういう事件か教えて!」と書き込むと、 「消される」 「タブーだから書くな」  などの返信がつくのである。  

実は、これはまったく虚構の話なのだ。架空の事件をでっちあげて、あたかも闇に葬られたヤバイ事件があった、と盛りたてていたのである。いわゆるネタである。しかし、そういわれると「わざと隠しているが、実は本当にあったのではないか?」という憶測も出てくる

「鮫島事件」の真相候補(?)には、こんなものがあげられている。
・中学校を舞台に、アングラ系のビデオが撮影された。ビデオを購入した顧客リストの中に、多くの2ちゃんねらーがいた。この顧客リストの所在が、現在不明となっており、リストの露見をおそれるものたちがいる。 ・柏駅前で、あるリンチ事件が発生した。固定ハンドル鮫島を名乗る男が、20人をリンチした事件が鮫島事件と呼ばれている。
・鮫島という代議士に絡んだ事件。  まだ2ちゃんねるがアングラサイトと呼ばれていた頃に流行したネタである。だが、今になっても噂は語り継がれている、怪物級の都市伝説なのである。  

実は「鮫島事件」に類似した都市伝説というのは、多く存在する。  中でも「牛の首」は、「鮫島事件」の原点ではないか、といわれている怪談だ。  聞いたものは恐怖で身震いが止まらなくなり、三日を経たずに死んでしまうという恐ろしい怪談であるという。  怪談の作者は、この話を聞いた多くの人が死んでしまったことを悔い、仏門に入る。

その後、二度と「牛の首」の話はしなかったという。この怪談を聞いたものはみんな死んでしまったため、「牛の首」という恐ろしい怪談があったということしか伝えられていない、というものだ。 「田中河内介の最期」という話もある

幕末の勤皇の志士、田中河内介は幼少時の明治天皇の養育係であった人物。寺田屋事件の際、田中河内介は薩摩藩に捕らえられ、薩摩へ送られる途中の船の上で惨殺され、海中へ放り込まれるという無残な最期を遂げている。非業の最期を遂げたことからか、当時薩摩藩周辺では彼にまつわる怪談が語られていたらしく、彼に関する話題がタブーとなったようだ。また、あまりの無残さに、明治天皇の前では彼の最後は語られることがなかったというところから、禁じられた話となったようである。  

こちらは事実に基づいた怪談だが、当時はいつの間にか「田中河内介=口にしちゃいけない」というものとなっており、より怖い印象を与えていたのではないかと推測する。  もうひとつ、「赤い洗面器の男」という小噺がある。  

テレビドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ)でよく使われたネタで、「赤い洗面器の男」の話をしていると、必ず邪魔が入って話が最後まで語られることはない、というものである。

脚本家の三谷幸喜がよく用いる手法で、ファンの間ではお約束となっている話である。  まず、道を歩いていると前から赤い洗面器に水を入れた男が、水をこぼさないようにそーっと歩いてくる。 「なぜあなたは洗面器を頭に乗せているのですか?」  と聞くすると男は静かに話し出す。 「それは君の……」。  

話は毎回、ここで終るのである。ここまで話すと必ず何か事件が起きて、続きがうやむやになってしまうのだ。絶対に、最後まで語ることができない、というちょっと怖い話である。  

これに関して、なぜ語ることができないのかという真実は明かされていない。  だが「赤い洗面器」略して「あかせん」は、「理由は明かせん(あかせん)」ということだとする説や、洗面器や水が頭上から落ちないので、「おちない」=「オチがない」という説もある。  結局どれも、真相はないに等しいといえよう。怖いもの見たさの好奇心が生み出した、幻の都市伝説、それが「語ってはいけない都市伝説」なのである