ある幼稚園での話。ある園児は生まれつき病弱だった。園児は幼稚園も休みがちだったが、その年の夏、体調が今まで以上に悪くなり、ついには入院してしまった。
10月は幼稚園の運動会がある。秋が深まっても病弱な園児は幼稚園に戻れるかどうかもわからない状態であった。しかし、病床ですごす事が長かった園児は運動会への参加を希望した。
彼女の主治医は無理はしないようにということで彼女が運動会へ参加することを承諾した。
運動会当日、彼女は徒競走へ参加する。 彼女は本気で走ったが、やはり常日頃頑張っている他の園児に及ばない。最後は競争相手の園児はみなゴールしてしまったが、彼女だけはまだコースの半分を超えたくらいを走っていた。
自然と周囲からは応援の声が聞こえ始める。
「頑張れ!頑張れ!」
「頑張れ!頑張れ!頑張れ!頑張れ!」
「頑張れ!頑張れ!頑張れ!頑張れ!頑張れ!頑張れ!」
思わず、涙ぐむ彼女の母親。最後は観客全員の拍手喝采の中彼女はゴールテープを切った。
その様子に感動したカメラマンがシャッターを切った。
数週間後、さらに病状が悪化してしまいその園児は亡くなってしまった。
短い障害だったが、最後は念願の運動会に参加できた。母親は我が子の最後の勇姿を収めた写真が欲しいと思った。
カメラマンに連絡を撮り写真を焼きまわしして欲しいとお願いした。
しかし、カメラマンは頑なに
「あの写真は見ないほうがいいですよ」という。理由はなぜか教えてくれない。
それでもなんとかと拝み倒し、母親はカメラマンから写真を譲り受ける事になった。
カメラマンが持ってきた写真を見た母親は一瞬にして青ざめてしまう。
そこに写っていたのはゴールテープを切る瞬間の娘と、全員が同時に胸の前で手を合わせ、目をつむる観客だった。
拍手喝さいだったはずのシーンはまるでお葬式のような描写になっていたのだ。
これがカメラマンが母親に写真を渡したくなかった理由だった。